紅芳記


二時ほどたったでしょうか、大殿がお帰りとの先駆けが参りました。

清姫も目を覚ましておいででしたが、無理をせぬよう、大殿を清姫の部屋にお迎え致す事と致しました。

先駆けの使者が来てから、更に一刻。

ついに大殿がいらっしゃいました。

皆、緊張の面持ちで大殿を見ます。

大殿はひとまず、清姫に話し掛けました。

「清姫殿、身体は大事ないか?」

「…はい。
ご迷惑をおかけ致しまして、申し訳もござりませぬ。」

「ま、致し方あるまい。
何も気にせず、ゆるりとなされよ。」

「…はい。」

「それで、父上!」

源次郎殿が、待ちきれないと大殿に詰め寄られます。

大殿は、皆をぐるりと見渡し、再び清姫に視線を戻されました。

「清姫殿、お手前は、すべてご存知と伺うが。」

「はい。
乳母や侍女、皆様方から今度の事はすべて伺いましてございます。」

「では、遠慮のう、すべて申すと致そう。」

皆が、息を呑みました。

「太閤殿下は、亡き秀次公の縁者をことごとく粛正しておる。
家臣の殆どは切腹し、大名家公家関係なく改易や流罪となり、奥方様、若様姫様方も捕われておる。
じゃが、三人、未だに捕われておらぬ姫様がおいでである。
それが、この清姫殿と、清姫殿の姉君、産まれて間もない菊姫様じゃ。」

「姉上が…」

清姫は安心したように息をつきました。

「左様。
菊姫様は生後一月ほどであるため、清姫殿の姉君は公家の奥方となっており、理由はわからなんだが手が出せなんだと見える。」

「それで、お清は?」

「既に真田家の人間と相成り、また十二という年を考慮し、結果、お咎めなしとあいなった。」

この時の大殿のお言葉に、皆が安堵し、喜びあいました。

しかし、本当の悲劇は始まったばかりにございました。