紅芳記


私は急いで、門に最も近い所まで、屋敷の中を駆けて行きました。

薙刀は、下手な誤解を招かぬよう、ふじに預け、私の後ろには仲橋が付き従います。

私がそこに着いた時には、既に、大殿、殿、源次郎殿、そして利世殿もいらっしゃいました。

さらに、もう源次郎殿と使者と思われる者の争いは勃発しておりました。

「清姫を差し出せとは、一体何のつもりじゃ。」

「た、太閤殿下の仰せにござる!」

「清姫は既に、儂の側室。
すなわち真田家の人間と相成った。」

「されど、清姫は紛れも無く秀次公の血を引いておる!」

「血を引いていようと、真田家の者。
今度の事と、何の関係もござらぬ!」

珍しく、源次郎殿の頭に血が上っています。

それを見兼ねたのか、大殿が助け舟を出されました。

「太閤殿下と話がしたい。」

「父上!?」

「儂を、太閤殿下の許へ連れていくが良い。」

「されど…」

使者の方は渋り、源次郎殿は大殿に反発なされます。

「父上、それなら私が…」

「まあ、待て、源次郎。
此処なら、そちより儂の方が上じゃ。」

そう言って、大殿は自らの頭を指で軽く突かれました。

それには源次郎殿も納得し、引き下がられます。

使者殿も考えあぐねたのか、大殿を案内するそうにございます。

「儂は、割と太閤殿下には気に入られとると思うがな。」

大殿は軽口を叩いて、笑いながら太閤殿下のおわします伏見城へと向かわれました。