紅芳記


清姫が源次郎殿の側室に上がったその日、私は殿と床を共に致しました。

殿に輿入れしてから、早九年。

私と殿にも、様々な事があったような気が致します。

右京殿の事、小田原の合戦、お夢の方様の事、上洛、朝鮮出兵、…まん姫の誕生。

本当に、いろいろな事がございました。

そして、きっとこれからも。

源次郎殿と利世殿には、きっとこれが最初の試練だったのでしょう。

「…小松。
何を、考えておる?」

寝転がって、殿に髪を手で梳いて頂いていると、不意にそう言われました。

どうやら、ぼうっとしてしまっていたようです。

「いえ、私も年をとったものだと。」

「ははっ、何を申すか。
そなたはまだ二十四、わしなど三十じゃぞ。」

殿は自嘲的に笑われました。

私もつられて笑います。

「左様にございましたね。
されど、利世殿たちを見ておりますと、何やら、私がずうっと年寄りに思えてしまって。」

「新婚とは、良いものじゃの。」

「はい。
そう考えますと、利世殿は本当にお強うございますな。」

「…清姫殿の事か。」

「ええ…。」

「全く、あやつめ。
今度ばかりは致し方あるまいが…。
利世殿という妻がおりながら、何をしておるのか。」

「ま、殿がそれを申されまするか?」

「…耳が痛いわ。」

私たちは顔を見合わせて笑いあいました。

殿と過ごすこの時が、私にとって何よりの幸せにございます。

世の中、皆がこのように幸せであれば、どんなに良いことか。

皆が幸せに暮らせる、泰平の世は、一体いつ来るのでございましょう。