紅芳記


「ふじ、世都を呼べ。」

私は静かに言いました。

ふじははっと目を見開き、首を横に振ります。

どうやら、私の考えている事がわかったようでございます。

「奥方様、それはなりませぬ。」

ふじは強い言葉で言います。

されど、私も引けません。

「ならぬ。
いくらそなたの申す事とて、聞けぬ。」

「奥方様っ!!」

ふじは声を荒げ、私に詰め寄ります。

「奥方様、古き教えに、このようなものがございます。
『君子、危うきに近づく可からず。』と。
奥方様のお考えは、それに真っ向から背くものにございます。
たとえ奥方様の仰せと言えど、従う訳には参りませぬ!」

ふじはさらに詰め寄りましたが、私は一歩も引かず、ただ押し黙りました。

ふじもじっと私を見ます。

私はただ一言、

「ふじ、わかってたもれ。」

とだけ言いました。

ふじは再び目を見開きましたが、私はさらに続けました。

「ふじ。」

暫く、もしかしたら刹那の間、とにかく私にはとても長く感じられる間が生じついにふじは折れました。

「奥方様。
貴女様のみならず、真田家、家臣の末に至るまで危険に晒すということを、お忘れなきように。」

「ふじ…」

ふじは私から目を反らし、世都を呼びに行くと部屋を去りました。