紅芳記


部屋に戻る途中、駕籠が見えました。

どちらのお家の方かしら。

気にはなるものの、結局私は一度部屋に戻り、くつろごうとしたとき、仲橋が来、

「奥方様、お客様にございます。」

と伝えられました。

「そうか、参ろう。」

私が行くと、客間には姫君がいらっしゃいました。

先程の雨宿りの方でしょう。

「この度は急な申し出をお受け入れ下さり、まことに有り難う存じます。
私は大谷刑部が娘、利世と申します。」

私はいささか驚きましたがすぐに、

「私は小松と申しまする。」

と名乗りました。

「では、こちらは真田様のお屋敷でございましたか。」

「はい。」

少し気まずい空気が流れます。

「利世殿は、縁談のことはご存知でしたね。」

私が先に口を開きました。

「…はい。
しかしながら、やはりお断りしとうございまする。
父の病は、恐ろしゅうございます。
私とて…。」

「そのようなことは良いのでございます。
真田家では誰も気にしておりません。
それに、利世殿は病にはかかっておられませんでしょう?
それで十分かと。」

「しかし!」

「利世殿、幸せにおなりなさいませ。
せっかくの機会にございます。
源次郎殿ならば、きっと貴女様を幸せにして差し上げられるはずです。」

「小松様…。」

利世殿はいよいよ涙ぐまれてしまいました。

「義姉上!
お客様はこちらで?」

「源次郎殿?」

突然、源次郎殿がいらっしゃいました。

「ああ、この方ですか。
はじめまして。
真田源次郎でござる。」

源次郎殿は利世殿とお分かりでないのでしょうか。

利世殿もかなり狼狽しておいでです。