紅芳記


「父上。
源次郎を連れて参りました。」

「二人ともそこへ座れ。」

「は。」

お二人が御座りになり、大殿は話を再開されました。

「源三郎、お前は今日太閤殿下のもとに行ったな。」

「はい。」

「何と言われた。」

「…私と源次郎に官位を授けるよう朝廷に頼むと。」

「それだけか。」

「は。」

「この文には、源次郎に豊臣姓も授けるとある。」

これにはこの場にいた全員が驚きました。

「私に豊臣姓を…」

信繁殿はより驚いておいでのようです。

「それだけではない。
今日、わしらは北政所様に呼ばれた。
源次郎の縁談のためじゃ。」

「縁談!?」

「大谷刑部殿の娘の利世殿とじゃ。」

「父上、それはまことで?」

「無論じゃ。
わしはこの話、全て受けようと思う。」

「待って下さい!
私に縁談など…。
それに、豊臣姓とは…」

「源次郎、これは受けねばどうなるかわからぬ。」

「……わかりました。」

「しかし、何故こんなに真田を重用されるのでしょう。」

殿がそういうと、大殿は少し考えられました。

「小松。」

私?

「はい。」

「このこと本多殿にも、まして徳川殿にも決して言ってはならぬ、よいか。」

父上にも、義父上にも。

「はい。」

「太閤殿下は徳川を警戒し、力を削ごうとしておる。
そして、徳川に対抗するよう諸大名の結束を強めんと考えておるのであろう。
そのために官位や縁談、豊臣姓は恰好の餌とでも言うかの。」

餌を与え、自らに与するように。

官位や姓は、その恰好の餌…。

「わしも徳川が力を付けるのは避けたい。
この話、受ける。
異存はあるまいな。」

「ございませぬ。」

「某もございませぬ。」

「山手と小松はどうじゃ。」

「あるわけがございますまい。」

「私もございませぬ。」

「そうか。」