紅芳記


「夢殿、急にすまぬな。」

私はあえて敬語を止め、正室という立場を強調した話し方をしました。

普段は右京殿にも夢の御方様にも敬語で話しますが、今は引くわけには参りません。

「…いえ。」

「私がそなたに会いに来た理由、思い当たる節があろう。」

「何もござりませぬが。」

なにをいけしゃあしゃあと…!

ここで声を荒げては私の負け。

抑えねば。

ふと目をやると、香登達私の侍女は明らかに怒り、夢の御方様や彼女の侍女を睨んでいます。

「そうか。
ならば、何故私の部屋を勝手に使おうとした。
政にも口出ししようとしたと聞いた。
右京殿や矢沢殿が諌めても悪びれもせぬともな。」