紅芳記


右京殿が下がられ、私はすぐに留守番の老女(身分の高い侍女)を呼びました。

普段はふじと仲橋を側に置いていますが、私付きの老女はあと2人いて、その内一人は病で宿下がり、もう一人には私の名代に沼田へ残らせておりました。

「香登(カガト)。
留守の間、大儀であった。
そちを呼んだのは他でもない、夢の御方様のことじゃ。」

私がそういうと、香登は眉をひそめました。

「お夢の方様のことでございますか。」

「左様。
夢の御方様にお会いしたい。
計らってたもれ。」

「…承知、致しました。」