紅芳記


「さすがは真田の御嫡男。」

男も殿と同じように不敵な笑みを浮かべながら面を上げました。

「そなたの名は?」

「名乗るほどの者ではございませぬ。」

「そうか。」

「は。」

大した内容の会話ではないのに、じりじりと殺気を感じます。

「わしと小松はそろそろ屋敷に戻る。
誰ぞ呼んではくれぬか。」

「それは、私の仕事ではございません。
三つ先の部屋に人がおります故、その者に。」

「わかった。」

「では、私はこれにて。」

再び男は平伏し、その直後またつよい風が吹き、気づいた時にはもう男はどこにもおりませんでした。

殿はまだ楽しそうで

「あの者にはまたどこかで会うであろうな。」

と独り言を呟いていらっしゃいました。