紅芳記


まさか、忍び?

私達の話を聞いていたのでしょうか。

いえ、聞くために平八郎か誰かが忍ばせたのしょう。

「わしは咎めることはせぬ。
後々無かったことに致す故、降りて参らぬか。」

しかしながら、殿はどこか楽しそうです。

器が大きいと言いますか、何と言いますか…。

「何をしておる。
そちの悪いようにはせぬ故、早う降りて参れ。」

殿のこの一言の後、屋敷の中だというのに強い風が吹きました。

思わず目をつむり、目を開けた時には殿の前に一人の男がおりました。

「よく、お気づきに。」

男は平伏しながらそう言いました。

「この部屋に入ってから、急に辺りが静かになった。
真田の嫡男とその妻が二人でおるのに、立ち聞きしようとする者の気配もなければ、朝鮮出兵で忙しいはずなのに、足音ひとつせぬ。
もしやと思うていたが、先程天井から小さな物音が聞こえ確信したまで。」

すごい…。

天井からの物音など、私は全く気づきませんでしたのに。