紅芳記


その声のすぐ後に、門が開くギィィという音がして、馬の蹄の音はもう目の前でした。

大殿を先頭に、信幸様、信繁殿が続き、家臣や兵が続きました。

紅い鎧を着た、凛々しいお姿。

兵たちの中には怪我をしている者も少なからずおりますが、殿はみたところお怪我はされていないようです。

「殿っ!」

馬を降り、城へ入ろうとしたところで私は声をあげ、殿も私とお母上様がいることに気づいたようです。

「小松!?
…それに、母上まで。」

「お戻りと聞いて、居ても立っていられなくて。
…お帰りなさいませ。」

「あぁ。」

殿の御手が私に伸びたとき、わざとらしい咳ばらいが聞こえました。

「…母上。」

殿は眉間に皺を寄せますが、

「源三郎。
そういうことは後になさい。
皆が見ておりますよ。」

と諌められました。

源三郎とは、殿の幼名です。

「…母上にだけは言われたくありません。」

殿の言う通り、お母上様はちゃっかり大殿の腕の中にいるのです。

「御前、固いことを言うな。
のぅ。」

大殿がそういうと、

「…もう。」

と顔を赤らめられました。

その時のお母上様の美しさに私も女ながらどきりと致しました。