紅芳記


ふじに、出来るだけ上座の近くに敷物を置かせ、

「もっとこちらへおいで下さいませ。」

夢姫様は、

「えっ…。」

と、戸惑われ、夢姫様の侍女も困ったように瞳を揺らしました。

「ささ、どうぞ。
夢姫様。
姫様がとんだわがままを申しまして、まことに申し訳ございません。
しかし、せっかくですので。」

と、ふじが言うと、更に戸惑われたようなので、ふじの言い方にムッとしながらも、

「はい、私のわがままでございますれば。」

とおどけて笑いました。

夢姫様はおずおずと敷物にお座りになられました。

それにしても、夢姫様は予想よりずっと控え目な御方です。

こちらが拍子抜けするくらいに。

ふじは気を使ったのか、私のことを『奥方様』ではなく『姫様』と呼びましたが、それも無駄だったのではと思うほどに。

しかし、とても見目は麗しく、三国一の美女、と言っても過言ではないほどです。

それに、小鳥の囀りのような美しいお声。

そのほっそりとした女らしい身体つき。

どれをとっても私など敵わないような、美しい姫君でした。