紅芳記


日が暮れてきて、夕餉も済んだため皆を下がらせて一人で月を眺めておりました。

夜の闇の中でも輝ける月は本当に美しい。

私も、月のような姫になりたい。

どんな闇のなかであろうと、凜と輝ける月のような姫に。

殿の正室に相応しいのは、誰の目から見ても小松姫しかいない、と思われるほどの姫に。

「…奥方様。」

「……ふじか。」

「はい。
白湯を、お持ち致しました。
夏といえど、夜風は身体に悪うございまする。
奥へお戻り下さりませ。」

ふじから白湯を受け取り、口に運びました。

「…そう、じゃな。
もう休もう。」

「はい。」

「………のう、ふじや。」

「何でございますか。」

「夢姫様は、今も苦しまれておるのであろうな。
こんな小娘が、殿の一番お傍におるのじゃ。
辛くないはずがない。
夢姫様にどう言葉をかけてよいか、わからぬ。
何を言っても失礼じゃ。
何も言わずとも、失礼じゃ…。
私は、どうすれば良い……。」

「凜と、しておればよろしいのでございます。
畏れながら、奥方様。
それは、ただの同情にございます。
それこそ失礼に当たりましょう?」

「……そうじゃ。
そうじゃの、ふじ。」

「はい。
さ、もうお休みなさいませ。」