紅芳記


私はもっと陣頭にたっていろいろと支度の指示を出したいのですが、身分が身分だからと、ふじは煩く忠告してきます。

それでも出来ることはなにかとそわそわとしておりますと、初めて見る侍女が来て

「夢姫様が是非一度ご挨拶にとの仰せございます」

と言いました。

随分と無愛想な侍女でしたが、それも道理でしょう。

「こちらとしても是非お会いしたい。
早々にお会い出来るよう、計らってほしい。」

私は満面の笑みで答えました。

「お…っ、奥方様っ!?」

ふじや私の侍女たちは驚いた顔をしていましたが、このまま忌み嫌いあう間柄が続こうとも少しでも彼女のことを知りたかったのです。

あわよくば仲良うに…、と、甘い考えかも知れませんが。

夢姫様の侍女は平伏してすぐに出て行きました。

「なんと小生意気なっ…!」

という若い侍女の言葉は聞こえない振りをして、

「仲橋、殿や兵をお迎えする首尾は?」

と問うと、

「滞りなく。
万事順調にございます。」

と笑顔で答えました。

「私もすぐに参ろう。」

さっと立ち上がり、打掛を脱いで袖にたすきをかけようとするとふじが慌てて

「奥方様!」

と諌めようとするのですが、私も譲れません。

「ふじ、殿は戦でさぞお疲れじゃ。
私が手ずから殿のお帰りの準備をして何が悪い。」

しれっとした顔で言うとふじは一度大きくため息をつき、

「全く。
ここまでくると言っても聞かぬことは存じております。
されど、あまり下々のやるようなことまでなさいませぬよう。
奥方様としての、殿様のお迎えのお支度を。」

と言いました。

「わかっておる。」

素早くたすきをかけて足早に侍女や下働きの者達が忙しく働いている所に向かいました。