紅芳記


葉月に入る前にはお戻りになると踏んで、殿たちをお迎えする支度があれこれと始まりました。

私は時々、自ら城下に赴き、皆に振る舞うお酒を選んでおります。

しかし、その道中の駕籠の中では心中穏やかではありませんでした。

上田城に程近い大きな屋敷に、私の前の殿の御正室、夢姫(ユメヒメ)様がいらっしゃるのです。

夢姫様とは、大殿の兄上様にあたる真田信綱様のご息女で、殿とは従姉妹の関係にあり、今は側室の御身分にあらせられます。

彼女はきっと、私を恨んでおいででしょう。

関白様や義父上様のお取りなしや、戦の和睦など政治的な面が強かったとはいえ、私は夢姫様から正室の座を掠め取ったようなもの。

愛する方の正妻の座をその時たった十五だった小娘に突然奪われ、更にはその愛する方から引き離されるとは…。

私にはきっと堪えられませんでしょう。

私には右近殿の時でさえ身を切られる思いでしたもの。

それとは比べものにならないくらいの悲しみや苦しみがあったことと思います…。

罪悪感、とでも言うのでしょうか。

夢姫様と殿はおん仲睦まじかったとの話も聞いたことがあります。

私は彼女とどう接したら良いのでしょうか。