紅芳記


夜は殿は私にお渡りくださいました。

「小松…。」

抱きしめて下さる腕は力強く、殿の厚い胸板に身を預けております。

殿が出陣してもしものことがあったら。

いえ、うちの殿に限ってそのようなことは…。

しかし戦とはなにが起こるかわからぬもの…。

「殿、右京殿は出陣のこと、ご存知なのでございますか?」

私ったら、何を…。

「いや、明日伝えるつもりじゃ。」

「左様にございますか。」

あぁ、何を言っているのか。

殿は私が右京殿のことを話すと一瞬悲しそうな目をされることを、存じているのですか…?

お嫌なのでしょうね。

私と右京殿は一見して仲良くしてはおりましし、私も右京殿のことは友として慕っております。

しかし、心の奥底では、真っ黒な嫉妬が渦巻いているのです。