紅芳記


「殿っ!
お戯れが過ぎますぞ。」

私はそう言って殿から離れました。

殿は何も仰せられません。

私ったら、なんてことを…。

「右京…。」

その時殿が呼んだ名は

私ではなく、右京殿…。

目から涙が溢れそうになりましたが必死で堪えました。

武家の女がたとえ殿であろうと人前で涙など流してはいけないのです。