「あっあぅあぅ…」

血の気が引いていく。

先生は深く息を吐くと、扉に向かって行った。

「―少し、休憩しよう」

「はっはい…」

バタンと扉が閉まる音が、重く聞こえた。

イスに寄り掛かり、わたしは天を仰いだ。

…今の先生に変わってからというもの、わたしの演奏はとんでもないものに変わってしまった。

あの先生の前では、指が言うことを聞いてくれない。

まるで壊れたオルゴールのような曲ばかりが、わたしの指先から生まれるのだ。

…あの先生とは、昔からの顔馴染み。

カッコ良くて、面倒見が良くて、子供好きな人だ。

正直言えば、初恋の人。

わたしがここへ来たばかりの頃、先生はまだ高校生だった。