クイーンをh5からh8へ、動かす。一番角っこだ。

キングへは、ビショップが一体挟まっている。

そのままビショップを取れば、その陰に隠れるキングに返り討ちだろう。

そこまではしない。

だが、ここまで斬り込まれたプレッシャーは相当なはずだ。

その間に、後続の戦力を投入して、内外から同時攻撃を仕掛けるのだ。

彼女の手は、今度も早い。

なんの迷いもなく、動かした。

c6のナイトを、d4へ。

いったい、どういう、つもりなんだ。

さっきはあれほど僕を脅かす連続だった彼女の攻勢が、緩んでいる。

遊んでいるのか……?

ちらりと見れば、彼女は楽しそうだ。

座った椅子の上で、微妙に揺れている。どうやらテーブルの下で足をブラブラしているらしい。

僕を、敵とも思ってないのだろうか……?

負けるものか。

彼女が攻勢を整えているのなら、僕も徹底しよう。