広い。
広すぎる。
大量の階段や廊下や教室の位置を覚えるのに必死で、私には菅原くんとの会話を楽しむ余裕がない。
女子用の設備はあまりないので、場所を覚えないとトイレにも行けなそうだ。
「…で、ここが女子寮です。好きな部屋を使ってくれていいですよ」
やっと校舎を終え、次は寮棟。
無駄に綺麗で広い部屋は、一人で使うのがもったいない。
「門限とかはないですし、自炊でも食堂で食べても結構ですよ」
なんというゆるさ。
「…で、食堂はここ。これで大体終わりですよ。質問はありますか?」
菅原くんは私をふり返る。
質問なんてあるわけない。
彼の説明は完璧だった。
頭もなかなかいいらしい。
「あ…じゃあ、男子寮ってどこにあるんですか?」
それなのに、私は菅原くんと離れたくなくて、聞きたくもないことを質問していた。
菅原くんは一瞬驚いた顔をして、それから顔に微笑みを戻した。
「…こっちですよ。行きましょう」
それが、悪夢の始まりだった。