「すぐに戻るから待ってて」 優しく笑う母さんの顔が、この時の俺には何故か不安に思えて仕方なかった。 「母さん待って!」 気が付けば泣きそうな声を上げて後を追い掛ける自分が居た。 無我夢中で母さんの細い背中を追い掛ける。 ……待ってよ母さん。 母さんも俺を置いてくの? 千愛だけじゃなく、母さんまで……。 「宝珠! 止まって!」 叫びながら俺に手を伸ばした母さんに、答えるように伸ばした手はいつだって届かない……。