耳に届く波の音と、足の裏に感じる砂の冷たさが、綾香の心を落ち着かせる。 それに気づいたのは、この街に来てすぐのこと。 果てしなく広がる水平線の手前で、冬の海が容赦なくうねる。 髪を靡かせる風の音が、世界から綾香をシャットアウトさせるようで、考えごとをするときはいつもこの場所に来ていた。 けれども、この場所にはしばらく来られなくなる。 『綾香? またここにいたの?』 .