「308号室になります」


そう言って渡された伝票とマイクを受け取り、私達は足早に部屋に向かう。


「ねぇ、何で失恋の歌ばっかなの?」


歌い初めて30分。

マリは呆れた声で、私の顔を覗き込んだ。


「たまたまだよ」


そう言って、マリから視線を外す。


「あ、絵里奈が隠し事した」

「してないって」


泣きマネをするマリに、私は思わず笑った。


「ちょっとトイレ」

「ナンパされないようにね」

「私、マリみたいにかわいくないから大丈夫」


私の言葉に笑いながら手を振るマリを背に、私はトイレに向かった。