いつまでもいつまでも、その時を忘れない。
何もかもが初めての様な気がしていた3年間。

季節は春。
長い冬が終わり、暖かい陽気が心地良い朝、私はクローゼットから真新しいブレザーを取り出した。
これから3年間着続ける制服に袖を通し、真新しい鞄を手に取った。

「行ってきまーす」

努めて明るく、玄関からリビングへ声を掛けたものの、明らかに私の心中は憂鬱だった。

家を出て、これまで 左に曲がっていた道を右へ曲がり、駅へと向かう。

途中、まだ開いていないカフェや服屋が建ち並ぶ商店街を通った。
まだ朝だったので当然なのだが、その時は何だかさびし気に見えた。

家を出て10分ほどで駅に着き、電車を待つ。
その間、他にも電車を待つサラリーマンや他校の生徒が目に映った。
皆の表情は無機質な表情で、暗く見えた。
その顔が当時はイヤで仕方がなかった。
やがて電車が到着し、吸い込まれる様に大勢が電車に乗り込む。

信じられない数の人が乗り込んだため、身動きのとれない状態で電車は走り出した。
ここから3駅。
息の詰まる思いで目的の駅に着き、電車の扉が開く。
電車の中程まで乗り込んでいた為、思う様に降りられない。
「お、降ります」