【完】晴 時々 雨




向かっているのは

カフェでもレストランでも飲み屋でもなく

きらびやかな光に支配されたホテル街だと

すぐに気付いた



でも

逃げ出そうとは思わない



思考回路が麻痺したように

あたしは何も考えず

ただ隣を歩く男の気配に神経を研ぎ澄ます



少しかすれた低い声が

あたしに名前を尋ねる



「名前を教えて」



偽名なんていう概念はなかった



「…サツキ」



その声で

本当の名前を呼んでほしかった



彼は目を細めるようにして笑い



「サツキちゃん」



あたしの名前を呼ぶ



「僕は、後藤といいます」



それこそ偽名だ