向かっているのは カフェでもレストランでも飲み屋でもなく きらびやかな光に支配されたホテル街だと すぐに気付いた でも 逃げ出そうとは思わない 思考回路が麻痺したように あたしは何も考えず ただ隣を歩く男の気配に神経を研ぎ澄ます 少しかすれた低い声が あたしに名前を尋ねる 「名前を教えて」 偽名なんていう概念はなかった 「…サツキ」 その声で 本当の名前を呼んでほしかった 彼は目を細めるようにして笑い 「サツキちゃん」 あたしの名前を呼ぶ 「僕は、後藤といいます」 それこそ偽名だ