すぐには答えは返ってこなかった。なにか考えるように黙り、一度視線をそらしてから彼女は言った。
「それだけじゃないんだけどね」
 失笑を浮かべた彼女の顔は、ベッド脇の灯りが落とされたことであっという間に暗闇に沈んでいった。
 突然の消灯に目が慣れず、すぐ側にいるはずの彼女を見つけ出すことすらできない。
 なんでもないことのように告白した、彼女と両親の間に生まれたなんらかの確執。自分の名前を捨てなくてはならないようななにか。
 それらを考えようにも、陽くんの件ですでにフル稼働していたあたしのオツムは、これ以上働きたくはないとそっぽを向いてしまった。秋の夜空の下に身を晒していた疲れもあり、吸い込まれるようにするするとあたしは眠りに落ちていった。