「具体的なことは何も聞いてません」

ただ『一か月の間に色々あった』ことは聞いていた。

「その時に、江川先輩は佐伯先輩に好意を抱くようになった。違いますか?」

江川は達郎から視線を外し、唇を噛んだ。

肯定と受け取れる仕草だった。

「しかし佐伯先輩は天堂先輩を選んだ。その結果、江川先輩は天堂先輩を憎むようになった」

江川は両の拳を固く握り締めた。

「そんな時、馬場先輩の提案で、ジュースを賭けたフリースローをやることになった」

『その時は』たまたま負けた江川は全員にジュースを奢ることになった。

「ジュースを配る時になって、江川先輩の頭に恐ろしい考えが浮かんだ。それは天堂先輩に毒を盛ることです」

むろん殺す気はなく、天堂が自分の目の前で無様な姿を晒してくれれば、満足するつもりだった。

江川は考えた末、ニコチンを塗ったジュースを渡すことを思い付いた。

タバコを吸わないとはいえ、手に入れること自体はたやすい。