「フリースローに負けるのはいつも江川先輩だったこと、おごるジュースは毎回同じものだったこと、ジュースはどの順番で渡すか等、佐伯先輩はどれも細かく覚えていてくれました」

「頭がいいからね、彼女は」

江川は皮肉めいた口調で言った。

「それに…」

「江川先輩」

何か言いかけた江川を、達郎の声が止めた。

「先輩はわざとフリースローに負けていましたね?」

江川は無言だった。

「それはなんのためか?いつも同じジュースを同じ順番で渡すためです」

最初に馬場、次に椎名、そして最後に天堂。

江川はいつもこの順番でジュースを渡していた。

「江川先輩」

沈黙を続ける江川に達郎は呼び掛けた。

「先輩が狙ったのは、馬場先輩ではなく、天堂先輩ですね」

しばしの沈黙が続いた後、江川は絞り出すように言った。

「…理由は(わけ)は?」

「理由は佐伯先輩の存在ですよ」

「いったい彼女から何を聞いた?」

江川の唇が歪んだ。