では天堂はどうか?

馬場が口にした毒付きジュースを手渡したのは天堂だ。

疑われる要素はある。
一方で天堂には由美という存在がいる。

その由美が達郎に接触してきたのは、天堂が由美を使って自らにかけられる疑いをそらそうとしているとは考えられないだろうか?

つまり由美から聞いた、このジュースが渡った順番は、天堂が由美に言わせたデタラメ…。

そこまで考えて、達郎は三たび舌打ちした。

そんなまどろっこしい事をする必要がどこにある?

いくら警察官の身内とはいえ、達郎自身はただの学生だ。

わざわざ姦計にはめる必要はない。

それに下手な策略を巡らすよりも、無視する方がずっと楽だ。

「何だかなー…」

事件を整理するつもりが余計に混乱してきた。

達郎は真っ黒になったメモ帳のページを眺め、大きくため息をついた。

「達郎」

不意に声をかけられた。

顔をあげたそこには兄の秀昭が立っていた。