「うちの母親の目だけじゃないわよ。姑の目もあるの」

姑とは、天堂の母のことだろう。

「あたし思うんだけど、父親の娘に対する感情より、母親の息子に対する感情の方が激しいわね」

天堂の母は会うたびに、息子にふさわしい相手かどうか、値踏みするような目で見てくるのだという。

「母親って時々ウザイと思わない?」

達郎はその質問に答えようがなかった。

なぜなら、達郎の母親はとうに亡くなっていたからだ。

母が亡くなったのは達郎が9歳の時。

母は病弱で、ずっと入退院を繰り返していた。

達郎には、ウザイと思うどころか、母親に甘えた記憶すら、ほとんどなかった。

「母親だったら、生きていてくれるだけでありがたいと思うけどね」

達郎は本心からそう言った。

「ふぅん」

そんな事情を知らない由美は、少し意外という顔をした。

「達郎くんのお母さんてどんな人なの?」

「もういないよ」

「え?」

「僕が小学生の時、病気で死んだ」