「まさかクレープとは思わなかったわ」

池のほとりのベンチ。
由美はイチゴクレープを手に、意外という顔をした。

「ホットドックの方が良かったですか?」

達郎の手にはチョコレートソースがたっぷりかかったバナナクレープ。

「達郎くんて大人びてるから甘い物とか食べないと思ってた」

達郎は大人びてると言われたことに戸惑いを覚えた。

「大人びてます?」

同年代にそう言われたのは初めてだった。

「たたずまいとか口調とか、そのへんがね」

もし自分が大人びてるとしたら、それは家庭環境のせいだろうなと、達郎は思った。

祖父や父は司法に携わる職業そのままの、堅い人間だし、祖母も厳格な人だ。

兄は明るい性格だが、年齢は一回り以上も離れている。

物心ついた時から、周囲は大人ばかりだった。

「あたし達郎くんみたいな大人な人が好きなのよね」

「先輩方は大人じゃないんですか?」

「あの連中は子供よ」