月と太陽の事件簿10/争いの樹の下で

秀昭は入庁と同時に独立し、1人暮らしをしている。

忙しい職務の合間をぬって半月に1度は実家に顔を見せに来てはいるが、達郎が兄に外へ呼び出されるのは、これが初めてだった。

「まぁそう急かすなよ。学校はもう終わったんだろ?」

学校帰りの達郎は、ブレザーの制服姿だった。

「お前のことだ。どうせ家に帰っても晩飯まで本を読むか勉強するかのどっちかだろ?ゆっくりしてけよ」

達郎は苦笑した。

決めつけられてもその通りとしか言い様がないのもあったが、秀昭がこの店をまるで我が家のように言ったからだった。

「お前にひとつ問題を出す。解いてみるか?」

達郎の返事を待たずに、秀昭はあごを後ろにしゃくった。

レジカウンターの前で、ウェイトレスが1人トレイ片手に立っていた。

黒髪をポニーテールにしている。

丸顔で、化粧気はないが人形を思わせる可愛らしい顔だちをしていた。

「あのウェイトレスさんがどうかしたの」

「まぁ聞けよ」