達郎はベンチに座って文庫本を開き、ページを追うふりをしながら、4人の男子生徒に目を配っていた。

4人とは、今回の事件に関わったあの4人だ。

その4人がいるのは学校の中庭にある通称【争いの樹】と呼ばれている大木の下。

その【争いの樹】の下に4人は集い、車座になって談笑していた。

彼らは昼休みになると、【争いの樹】の下に集まるのを日常にしているらしい。

この1週間、4人の行動を追うようになって知ったことだった。

4人の会話の内容は達郎のいる場所からは聞き取れない。

ただいつも彼らがどんな話をしているかは噂で聞いていた。

その噂によると彼らはいつも「やたら難しい話」をしているらしい。

『白鯨』のモービィ・ディックは何を象徴しているのか

フェルマーの定理の回答を出せるか

石油市場に対する輸入国の投資家のあり方

…etc.

ご苦労なことだと達郎は思う。

彼ら4人は校内でも有名なエリート集団だった。