尤もそれは漠然と思っていただけで、それが間違っていないと確信したのは昨年の夏だった。


高校にもなればちらほらと教室内でも聞こえてくる話。

経験済みの奴、その夏に初体験を迎えた奴、まだの奴。


よくもまあ男共がいる教室でそうも話せるなと遠くに聞こえる声を聞き流していたとき。


それまで横に座っていたこいつは、音も立てずに立ち上がり教室を出て行った。


そのときの残り香を今でも覚えている。

そしてそのときの瞳の色も。


次の授業をサボった彼女は、昼休みになって何事もなかったかのように帰ってきた。


ただ違ったのは、その襟元の近くに痕が残っていたことと。

いつもは柑橘系の香りをまとっているのに、バニラの甘い香りに変わっていたこと。


ああ、そうかと気づいたときにぶつかってしまった視線の向こう。

彼女はただひっそりと、瞳だけで笑って見せた。



その表情が、充分に物語っていた。

もう男のことではしゃぐような場所にいないことを。