「お前、狂ってるだろ」

一瞬火花が散った頭は、すぐに冷静に戻っていた。

未だに見上げてくる顔が、近くにあるせいかもしれない。


「そうかも。でも意外と純情かもね」

「どこがだよ」

「さあ。いいじゃん、そんなこと。今は気持ち良くなりたいんだから」

「だから俺以外を選べ」

「やだ。だって」


古びた壁から吹いてきた、冷たい風が頬を刺した。


「一番、上手いし」


同時に鋭い声が脳を痛めつける。



何がしたいんだ、こいつは。

冷静だと思っていた頭はあっさりと指令を出した。


太腿の上にあった手首を掴み上げ、彼女の身体を引きずりあげる。

いや頭に血は昇らない。

自分でも恐ろしいぐらい、冷めている自分が自分を見ていた。