愛憎コノテーション[短篇]

「ヨリ戻したんだってな」

ドアを閉めてちゃっかり隣に腰を下ろした相手にそう言ってやると「なんだ、知ってるんだ」と少し悔しそうに笑う顔が返ってきた。


「呼んで来てやろうか」

「どうして?」

「俺よかあっちの方がいいだろ、色々と」


既に自棄になっているだけだ。

でも正直、一緒の空間にいても意味のわからない感情に包まれるだけ。


なのに彼女は。

赤い唇をにいっと横に引いて、笑った。



「ね、セックスしようよ」

女の、顔。

その顔に無言のまま答えると、彼女の瞳に彩(いろ)が増す。

「どうして? 好きでしょ? 気持ちいいんならいいじゃん、しようよ」


まるで匂いまで変わったかのように。

しなやかに伸びた手が、俺の太腿の上に置かれる。


しかしその掌には、何も感じなかった。