愛憎コノテーション[短篇]

こんな日に部室にいる奴はいない。

鍵を開け、冷えた身体を滑り込ませる。


昨日の帰り誰かがご丁寧に用意しておいたバケツにうっすら雨水が溜まっていた。



その底に落ちる定期的な音を聞きながら、煙草に火を灯す。

耳に残る声を打ち消すかのように、雨音に集中しようと意識を向ける。


そんなこと、どうにもならないと言うのに。


忘れようと思えば思うほど、浮かんでくるのはあいつで。

ここで見せた少し歪めた顔と。

さっき聞いたあの声と。


交わらない二つが、煙草の味を不味くさせていく一方だ。