「アハハ…。まあオレは彼の好みじゃなかったみたいだから」

オレは引きつった笑みを浮かべる。

「ったく…。アイツがサマナの隣の部屋に来ると知っていれば、先に忠告できたんだけど。ゴメンね?」

サラは申し訳なさそうに頭を下げた。

「いっいやいや! サラのせいじゃないだろう? でもタカオミって前からあの部屋じゃなかったんだ」

「ええ、転校生は珍しいからね。おもしろがって、隣の部屋に越したみたい。前はサマナの向かいの角部屋にいたの。部屋は余っているから、空室であればどこでも移動可能だし」

…なるほど。本当に自由にさせてくれる街だ。

「サマナ、もしかしたら帰っちゃうのかもしれないって思って、ここに来たの」

「えっ? ああ、ここに来たのは偶然だよ。走っている時は無我夢中だったし」

正直、自分でどこをどう走ってきたか何て覚えていない。

「良かった…。サマナが帰っちゃったら、寂しかったし」

そう言って弱々しくサラは微笑む。

「―帰らない。オレはここで生きていくことを決めたから」