けれどそのことが、楽でもあり心苦しくもある。

親父とは不仲とまではいかなかったものの、冷え切っていたと言えばそうとも言える。

だけどせめて、この街の説明ぐらい前もって言ってほしかった。

言えば逃げ出すと思っていたんだろうか?

そうなれば自分の仕事の立場が危うくなるとでも思った?

…どちらにしろ、息子への愛情など欠片も残っていない証拠だろう。

だけど分かったこともある。

母の死後、オレをどこにもやらなかった理由だ。

施設や親戚に預けるワケにはいかなかった理由が、ようやく理解できた。

いずれは生贄として差し出さなければならない大事な存在―だから。

そこでふと思った。

母は…知っていたんだろうか?

父の血族のことを、そして仕事のことを。

…いや、優しく穏やかだった母には、知らせていないだろう。

到底、受け入れがたい真実だ。