「かわいいだろう?
気に入ったならプレゼントしよう」

棗の様子を見ていた暁生が
後ろから声をかけてくる。

「本当?」

棗は嬉しそうに子猫を
見つめていたが
不意に笑顔が消える。

そんな棗の頭に暁生は
そっと手を置いた。

「大丈夫だよ、菖蒲には
私が押しつけたといっておこう」

自分の娘である菖蒲の
気性の激しさは
暁生が一番わかっている。

婿養子に入った
棗の父にあたる晃は
気性の弱い男で
社長という立場にありながらも
実質すべての決定権を
持っているのは菖蒲だった。

むしろ気の弱い男を菖蒲は
選んだといっても間違いはない。
菖蒲にとって会社を動かすための
人物がほしかったにすぎないのだ。

そんな菖蒲とは昔から
対立する一方で
西園寺グループの会長となって
現役を退く時に屋敷を離れ
1人でここに住み始めた。