下げてちょうだい、と
菖蒲がトレイを棗に渡す。
寂しさを宿した菖蒲の横顔に
棗は思わず言葉を発していた。
「わたしは西園寺の娘ですから
いずれお母様の為に働きます。
でも…自分の決めた人以外とは
結婚しません」
母がキョトンとした顔で
自分を見つめる。
「あの、おじい様のとこに
行く気はないですから」
「…行かせる気はないわよ、
それよりどういうつもりなの?」
母の言葉の調子がいつものように
強くなる。
棗は深く息を吸い込んで
一気に吐き出した。
「…好きな人がいるんです」
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