菖蒲の細い指がそっと棗の
髪を撫でる。
「無事でよかったわ」
流れ込んでくる色を感じながら
棗は目を閉じた。
薄い桃色。
様々な色の奥に隠れるようにして
ひっそりとある色を
見逃さないように集中する。
ずっと、
奥にあったのかもしれない。
感じようとしてなかっただけ
なのかもしれない、
母の愛情を。
「…結局、仕事もあなたも
あの人に取られそうね」
目を開けると自嘲気味に笑う
菖蒲の顔が映る。
「お母様が休む間だけおじい様が
仕事は引き継ぐんでしょう?」
柊から聞いたことを
そのまま口にする。
菖蒲の仕事をすべて
把握しているのは
暁生しかいないからという
話だった。



