君の瞳に映る色



言いかけたまま言葉を続けない
棗に菖蒲が膝の上の食事から
視線を上げる。

「婚約のことを
聞きに来たんでしょう?」

棗の膝の上で重ね合わせた手に
キュッと力が入った。

「どうして断ったんですか?」

手から視線を移すとまだ
痛々しい跡の付いた手首が
目につき、菖蒲は視線を外した。

「聞けば行方不明になったのも
向こうの責任だと言うし、
そんな家に嫁がせるつもりは
ないわ」

「でも、業務提携は?その為に
話を進めてきたんじゃ…」

菖蒲の視線が棗を捉えて、
棗は言葉を止めた。

「なぜかしらね。病院のベッドで
寝ている傷だらけのあなたを
見たら頭に血が上ったわ」

菖蒲が棗に手を伸ばす。
屈んだ棗の肩に掛けた髪が
パサリと下に落ちた。

「顔をよく見せてちょうだい」

溜め息交じりに言った菖蒲の顔は
スーツ姿の時と違いずいぶん
歳をとったように感じた。