ノックの音に閉じていた瞳を
菖蒲は開けた。
どうぞ、と声を掛けると
遠慮がちに開いた扉の向こうに
娘が立っている。
少し驚きながらも入りなさい、
と言った。
食事をのせたトレイを
持っていた棗に
少し顔をしかめると、
「そんなのはメイドに
やらせなさい」と思わず呟く。
「あの、わたしが作ったんです」
言われて見ると、トレイの上は
おかゆとスープという
シンプルなものだった。
させたこともないのに
料理をしたという娘に少し
驚いたが菖蒲はトレイを
受け取った。
「上手くできてるわ」
おかゆを口に運びながら言うと、
ベッドの傍の椅子に座っていた
棗の顔が綻ぶ。
娘の笑顔を見るのも
何かで褒めるのもとても久々に
感じた。
「わたしが東條さんのお屋敷から
いなくなってあまりお休みに
なってなかったと、柊が」
「ふん、あの男はおしゃべりね」
「あの…、」



