君の瞳に映る色



あのさ、上から声が下りてきて
玲の胸に預けていた顔を上げる。

「1つだけ、いい?」

「………なあに?」

玲の色は今でもよく見えない。

ただ自分を見つめる玲の瞳に
本能的に妖しい光を捉えて
棗は顔をしかめた。

「キスして」

笑顔の玲とは対照的に
棗の身体は固まる。

身体中の血液が一気に
沸騰したように熱くなる。

心臓が自分のものではない
みたいに激しく鼓動を刻んだ。

嫌?と聞いて玲は眉を下げる。

そう言えないことを
知っているくせに。

黙ったままの棗に、答えを
待たずに「早く」と求めて、
玲は目を閉じた。

静かな病室で自分の鼓動の
音だけがうるさく頭に響く。

ドアの方を振り返り、
誰もいないのを確認して
顔を寄せた。