あのさ、と遠慮がちにトモキが
口を開く。
「それ、キスマークだと
思うんだけど」
消えるような声で言いながらも
顔は笑いを堪え切れない様子だ。
え?と思わず聞き返した声が
裏返った。
「俺らみたいにヴァンパイアが
見える人間は暗示が効かないから
噛まれたら相当痛いはずだよ?」
トモキの話がそのまま
耳を通過していく。
呆然とする頭に不意に
不敵に笑う玲の顔が浮かんだ。
「……玲の病院はどこ?」
ふらつきながらもベッドを
下りて棗は歩き出す。
予想をしなかった棗の行動に
トモキはうろたえた。
道を塞ぐようにトモキは
棗の前に出る。
「どいて」
冷たい目線と声に自分より
歳下の女性ということも忘れて
トモキは身体を竦ませた。
「俺、怒られるもん」
泣きそうな声で言うのを無視して
棗は病室の扉をスライドさせる。



