君の瞳に映る色



「婚約をダメにして
しまったわね」

白い天井を見ながら棗は
独り言のように呟いた。

「ご婚約の話はお断りしたと
伺っております」

思いもよらない柊の言葉に
棗は目を丸くする。

「お母様が、断ったの?」

確認するように繰り返す。

思わず身体を起こすと、
気だるい重さの残る身体に
軽い眩暈が襲ってきた。

ふらつく棗の身体を柊が
再びベッドに戻す。

「業務提携だけでも、と
東條家から話があったのですが
それもお断りしたようです」

「なぜ……?だって…、
お母様は会社を大きく
したかったのではないの?」

棗の問い掛けに柊は
笑顔だけで答える。

「意識が戻られたことを奥様に
連絡してきますね」

柊が立ち上がる。

疑問が言葉にならないまま、
後ろ姿がドアの外へ消えるのを
見ていると、
入れ違いに若い男がドアから
顔を覗かせた。


「あ、目ぇ覚めた?」

どこかで見た気がしたその顔は
櫂斗の屋敷で銃を構えて
入ってきた男だった。

「あなた…、玲は?
…玲はどうなったの?」

身体を起こしたものの力が入らず
態勢が傾く。

わわっ、と慌ててドアの傍にいた
男が駆け寄って棗を支えた。