君の瞳に映る色



「じゃぁ、わたし行くから」

不意に告げて菖蒲は歩き出す。

どこに?と言いたげな暁生に、
仕事でトラブルがあったから、と
先に答えた。

「……あの子の部屋は
病室の一番奥よ」

それだけ言うと暁生の方は
見ずに菖蒲は出口へ向かった。

菖蒲の背中に暁生はフッと笑う。
そうして菖蒲が来た方へ
暁生は歩き出した。




病院を出ると、柔らかい花の
香りと、緑の匂いが鼻腔を擽る。

菖蒲を待っていた車から
秘書が下りてきて扉を開けた。

遠ざかる病院を横目で見ながら
遠い日の母の姿が
脳裏に浮かんだ。


母は死ぬまで父を悪く
言った事はなかった。


『あの人は好きな事をしている
時が一番輝いてるの。
だから応援してあげたいのよ』


額に手を当てて菖蒲は
深く息を吸う。

シートに凭れながらゆっくりと
目を伏せた。