一色の手から離れた銃が
カシャンと床に転がる。

後ろにいた小柄な男が
それを蹴って遠ざけた。

「トモキ…お嬢さんを!」

トモキと呼ばれた男は棗たちの
元に駆け寄る。

銃を構えたままの男は櫂斗と
一色を交互に見て、妙な動きを
しないように見張っていた。

その時、薄く開いた扉から
初老の男性が顔を出した。

櫂斗はちらりと視線を動かす。
男性も櫂斗を見た。

「…ボス」

一色の声に男性はそちらを見た。

「もう、お前のボスじゃない。
協会はおまえを破門にして
警察に通報するそうだ」

男性が言うと、一色は首を項垂れ
肩を落とした。

それを見て、男性は再び櫂斗に
視線を戻す。

「櫂斗くんだね、ご両親に
連絡させてもらった。
ヴァンパイアである君の処分は
ヴァンパイア界の掟に従って
下されるだろう」

櫂斗はゆっくり目を伏せると
薄く笑いを浮かべた。

「どこかで見た顔と思えば、
…西園寺会長ですね。
彼女が僕の正体を知っていた事が
これで納得いきましたよ」

後から入ってきた数人が棗と玲を
部屋から運び出す。

それを櫂斗は目で追いながら
傍に立つ暁生に
「意外と冷静ですね」と言った。

暁生は苦笑いを浮かべる。

「仕事モードなんだよ、
……だからいけないんだな」

最後の呟きは溜め息とともに
静寂の訪れた広間に
吸収されていった。