真上の階に移動した玲は
手近な壁にもたれかかった。
力が足りずに近くに
移動するだけで精一杯だった。
息が上がる。
眩暈がする。
不意に近くで人間の匂いがした。
廊下を歩いて行くと、
角を曲がった先から使用人らしき
女性の姿が見えた。
近くに来た女性の腕を
壁際に潜んでいた玲が捕まえる。
咄嗟に口を手で覆ったが、
その表情が虚ろなことに気づいて
手を緩めた。
抵抗もせずにぼんやりと
立っている女性、
操られている女性の血を
吸うことに少し躊躇いを感じたが
意を決して玲は女性の肩口に
顔を寄せた。
崩れ落ちる女性を抱き止めると、
壁に寄りかからせる。
傷が治癒したわけではない。
それでも先ほどとは
比べ物にならないくらいに
身体が楽だった。
追手を避けるようにさらに
上の階へ玲は瞬間移動した。
「―――――――――玲!」



